向けたアクション
小さな一歩の積み重ねで、
足立区の未来がつくられています。
障がいの有無にかかわらず地域住民に囲まれて成長する街ぐるみで支える子どもの福祉
7~18歳の重症心身障がい児が活動する部屋「はばたき」にて
入り口から続くスロープの先には広々としたエントランス
子ども一人につき、一人の児童指導員が個別で対応しています
特徴的なロゴマークの前で微笑む矢部さん
足立区・扇の住宅街でひときわ目を引く黄色の壁の建物。重症心身障がい児向けの支援・介護事業を行う「FLAP YARD」です。設立当初、親子分離型の重症心身障がい児通所施設は珍しく、福祉業界の注目を集めました。0~6歳までと7~18歳までを対象としたサポートが同施設内で受けられる事業所も日本でここだけだそう。前例のない取り組みに踏み出した施設長の矢部さんに、事業の内容や施設を始めたきっかけについて伺いました。
PROFILE
FLAP YARD
2012年に、FLAP YARDの前身となる0~6歳の重症心身障がい児を対象とした児童発達支援事業所を開設。2016年には足立区扇に拠点を移し、FLAP YARDを建設して7~18歳向けの放課後等デイサービスも開始しました。現在は前述の2事業に加え、障がい児相談支援事業・居宅介護事業の実施や、各種支援団体と協働して無料LINE相談サービス「SKIP」の運営も行っています。
FLAP YARD
https://flap-yard.com/
- 矢部弘司さん
- 社会福祉法人ソーシャルデベロップメントジャパン代表・FLAP YARD施設長
FLAP YARD
障がい児と家族の意志を汲み、共に成長を喜ぶ
FLAP YARD設立のきっかけは、障がい児が何を考えどんな想いを抱えているのかを世の中の人が知る機会がなく、障がい児の意思が尊重されない世の中に課題感を抱いたことでした。特に重症心身障がい児は数が少なく、彼・彼女らが抱える障がいの実態や置かれた状況については、まだまだ世間の認知や理解が足りていないのが現状です。そこで矢部さんは音楽療法や外出の機会を活用し、子どもたちのコミュニケーション支援や社会化支援に尽力してきました。わずかな反応から相手の喜怒哀楽を読み取る技術も磨き、障がい児の意思が尊重される社会づくりを目指しています。
児童発達支援所での療育を受ける際、通常は年齢に応じて通う施設が分かれます。しかし、FLAP YARDでは、0~6歳までと7~18歳までを対象としたそれぞれの事業が一つ屋根の下で行われているため、一人の子どもに対して0~18歳までの継続した支援が可能になっています。さらに、支援の相談窓口を開いたり、自宅での食事・入浴等のサポートを提供する居宅介護事業も展開したりと、さまざまな形で障がい児支援に取り組んでいます。「ご家族の負担を減らし、一緒に子どもの成長を喜びたい」と語る矢部さん。支援は子どもだけでなく家庭にも及ぶべきとの考えから、このような複合型の福祉サービス施設が具現化しました。
館内は明るくポップな雰囲気です。職員室などの一部の壁紙には、一般的に自閉症などの障がいを持つ子どもには刺激が強いとされるカラフルなコミック調の壁紙もあえて採用。地域の子も気軽に訪れ、楽しく過ごせる場にしたいという思いから、迷った末の決断でした。FLAP YARDでは、障がいのある子とない子が共に成長する「統合保育」を重視しています。夏には大きなプールを開放し、近隣の子どもたちやアルバイトスタッフの大学生も参加して盛り上がるそう。障がい児にとっては健常児の動きを見て学び身体機能が向上するきっかけとなり、近隣の子どもたちにとっては、障がいのある子も当たり前に受け入れる土壌を育む機会となります。
周辺住民との交流を通じて、育児、貧困、医療といった地域の問題は複雑に絡み合っていることを実感したという矢部さん。2023年からは他の支援団体と協力し、LINE相談サービス「SKIP」を設立しました。0~18歳の子どもに関する悩みに専門家が無料で対応し、複数の課題を抱える家庭の孤立を防ぎます。どこを頼ったら良いのかも分からないSOSを見逃さず、必要な支援へと橋渡しをする。地域に根差したFLAP YARDの活動は、障がい児福祉の枠を超え、より包括的に地域の課題解決を支えていきます。
関連するSDGsゴール
Words for the Next!
未来の足立を見据える「FLAP YARD」矢部さんの語録
ライター
障がい福祉に興味を持ったきっかけを教えてください。
矢部さん
バックパッカーとしてイギリスの田舎町に滞在した際、自宅の近くに障がい者施設があったんです。そこで半年間以上ボランティア活動を続けるうちに、福祉をライフワークにしたいと思うようになりました。
ライター
海外での経験が転機になったのですね。
矢部さん
特に印象的だったのは、現地の人たちの意識です。誰かが助けを求めると「あの人に頼もう」と、大工さんでもレストランのシェフでも、すぐに共同体を作ってしまう。そのフットワークの軽さに衝撃を受けました。
ライター
FLAP YARDを通じた今後の活動について、目標や展望はありますか?
矢部さん
FLAP YARDを立ち上げて9年近く経ち、近所の方々も「困ったことがあれば力になるよ」と関心を寄せてくれます。子どもとその家族だけではなく、地域社会全体に働きかけることで、世間のありようは変わるのではないでしょうか。最終的には、誰もが差別されることのない世界を実現させたい。そのために、まずは足立区扇で障がい児支援を通じて知識やノウハウを集めて、差別を生まない仕組みを作り、それを他の地域にも広げていけたらと思います。